明和電機がアートとマイクロファクトリーで目指す“リアル”な欲望

July 31, 2019 Megumi Yoshida

世界を股にかけるパフォーマンス アーティストとして、また、不思議な楽器オタマトーンを初めとしたトイ系マスプロダクトのメイカーとして、そしてまたある時はものづくり界隈のリーダーとして広く活動する明和電機は、2019 年 3 月、初のリアルショップ「明和電機 秋葉原店」と、併設するレンタルスペース「ラジオスーパー」、そしてギャラリー「ラジオギャラリー」の 3 店舗をオープンした。これからの「小さなものづくり」は、テクノロジーの進歩によってどう変わってゆくのか、そして、あえて今リアルショップを運営する意味とは?

電子部品・電子機器を販売する店舗が多数入った、歴史ある秋葉原の東京ラジオデパート。その 2 階にある「明和電機 秋葉原店」に隣接した「ラジオギャラリー」には、明和電機の社長・土佐信道氏が美大生だった当時に作った作品「ノッカー」が、アイデア スケッチとともに展示されている。この作品は、いまパフォーマンスに使っているナンセンスマシーンの原点となったものだが、そのタッチは何ら変わっていない。

「それがアナログなものであれ、デジタルなものであれ、なんらかの機構を使った作品を作る、というのは、基本的に学生時代から変わっていません。そして、手で絵を描くところからアイデアや設計を始めて、カタチのあるモノを作っていく、という工程もずっと同じです」と、土佐氏は語る。「ただし、その過程で使うツールは時代とともに変わっています」。

左手でゼンマイを巻くと右手が頭をノックするノックマン (中央) と、ワイヤーアクションでコントロールする打楽器トイ、ミスターノッキー

「例えば、最初に描くアイデアスケッチはずっとフォーマットが決まっていて、A4 のタイプ用紙を横に使い、ぺんてるのプラマンで描く、というスタイルでやってきました。紙の最大のメリットは、原寸で描くことができて、サイズ感を詰められるということです。でも、3 年前に Surface を買ってから SketchBook も使うようになりました。海外でもどこでも色が簡単に着けられるし、直線や定規がさっと出せるなど、デジタルならではのメリットがあるので便利に使っています」。

機構のアイデアの実現からマスプロダクトへ

ライブ パフォーマンスに使われているナンセンスマシーンの中には、明和電機の活動当初から現在まで、細かい修理や改良を重ねながら使われているものもある。そして、その機構のアイデアから製品化されたおもちゃも少なくない。

「僕のものづくりの基本は、いろんなパーツを集めて機構を実現するということです。それを、ムダを削ってデザインに落とし込んで行く。今でこそ CAD で設計をして、Fusion 360 の CAM の機能で工作機を動かしたり、3D プリンターでパーツを出力したりということをやっていますが、パーツを専門店で探すこともあれば、ホームセンターや 100 円ショップで入手することもあります。海外公演の時にマシーンが壊れて、現地で修理しなくてはいけないこともしょっちゅうありますが、現地スタッフに入手できそうなお店を教えてもらったりして、結構なんとかなっています」。

ベロミンエッグのスケッチ [提供: 明和電機]

明和電機がアトリエに 3D プリンターを導入したのが、約 5 年前。それにより、プロトタイプを作るスピードが格段に速くなったと土佐氏は言う。「ちょうど、ひとつの楽器にひとつのキャラクターをコンセプトに開発したマスプロダクトの楽器おもちゃシリーズを作っている途中でした。2000 年にノックマンファミリーを作った時にはまだ 3D プリンターがなくて、自分でプラスチックを削ってモックアップを作って、さらに量産設計ができるプロトタイプを職人さんに依頼して作ってもらっていました」。

「同じような楽器おもちゃのミスターノッキーの開発から 3D プリンターを導入して、CAD から直接、原型の一歩手前のものがアトリエで作れるようになりました。ただ、当時は強度も低く、まだ積層が荒くて歪みも大きく、モックアップの制作がせいぜいで、フェティッシュな質感は全く出ませんでした。それが苦手だったんですが、その後 FDM 方式のものを買って、それはいますごく使えていますね」。

CAD を使い始めた 1989 年から、ソフトウェアもハードウェアもどんどん変わっているが、基本的なモデリングの方法はずっと変化していないこともまた、デジタルの利点だという。「僕は音楽もやっていますが、MIDI (電子楽器の演奏データを機器間で転送・共有するための共通規格) も基本的なところは 40 年近く変わっていません。音楽ソフトもモデリングに使うソフトも、基本ルールが同じである限り使えるというのはありがたいですね」。

また、一方で「機械設計は経験がないとできないので、そこは経験しておいてよかったなと思っています」とも語る。「レーザーカッターでプラスチックを切る、とか、工作機で材料を削るといった作業が機械でできるようになったことは、自分が歳を取れば取るほど助かったなと思います。指が動かなくなっても OK だし(笑)」。

明和電機 秋葉原店のスケッチ [提供: 明和電機]

明和電機 秋葉原店でオタマトーンを前にした社長

明和電機の活動を三角形で表すと、頂点の部分がパフォーマンスや展示などのアート作品、底辺の部分がマスプロダクトに相当する、と語る土佐氏は、最近はちょうどその間となる、小ロットのプロダクト制作が面白くなってきているという。

マスプロダクトの時代からマイクロファクトリーへ

「アート作品は、コストを考えずに自分が作りたいものを作ります。それは展覧会やライブで多くの人の目に触れて、何をやっているかをいちばん伝えられるものとして、広告費と同じだと考えているからです。マスプロダクトは販売してくれるメーカーと一緒に作ることもあって、例えば 3,000 個は絶対に売れるものにしないとダメとか、量産できるデザインじゃないとダメとか、制約も多い」。

「明和電機が活動を始めた 90 年代前半は、まだ CD が当たり前に 100 万枚売れて、僕らもソニーミュージックから CD デビューしたし、いきなりマスプロダクトを出してもヒットする時代でした」と、氏は続ける。「それが次第にどんどん細分化して、ひとつのモノがたくさん売れる時代じゃなくなってきた。でも、その代わりに技術が進歩して、マイクロファクトリーやデスクトップファクトリーで 3D プリンターやレーザーカッターを使い、100 個くらいの小ロットでアイデアを具現化したプロダクトを作って売ることができるようになりました」。

明和電機の社長、土佐信道氏と電磁石を使ってモノをたたく装置、ノッカー

その「もの」を介してアーティストやクリエイターが繋がっていく感じが、逆にいま新しいのではないかと思ったのが、電子工作系レンタルスペース「ラジオスーパー」のオープンにつながったという。「もちろんネットショップもいいですが、リアルな場所で見たことのないような“モノ”を目にした時、手にした時に、それが欲しいというフェティッシュな欲望をかきたてるというのが、ネット上での閉じたモノの売買に慣れた現代の僕たちにとって、逆に最先端の体験なのではないかと思いました」。

世界各地でイベントに参加したり、展示を行ったりすると、各地にヘンなものを作る人たちのコミュニティが必ずあるということが実感できる、と土佐氏は言う。「一昨日まで上海で現地のものづくり界隈の人たちと一緒にいて、9 月には TAOBAO のイベントにも出展する予定ですが、そういう世界各地でラジオスーパーみたいに、お互い作ったものを交換できるような拠点が作れたら面白いなと思っています」。

「世界各地でヘンなものを作っている人のコミュニティに、それぞれ現地のマイクロファクトリーがつながり、それぞれの得意を発揮してコラボレーションし、製品を交換しあうようになることで、マスプロダクトでは実現できないような、ジャンクで愉快なものづくりのネットワークができることを楽しみにしています」。

Previous Article
The Future of Making: Design Automation and Imagination [Infographic]
The Future of Making: Design Automation and Imagination [Infographic]

With the global population growing to 10 billion by 2050, how do builders, designers, and manufacturers cre...

Next Article
国内 3 社が BIM 導入で推進する「生産性向上」の取組み
国内 3 社が BIM 導入で推進する「生産性向上」の取組み

BIM の導入により生産性の向上を推進している先進的な国内企業として、日本設計、プロパティ データバンク、日建設計の 3 社における取組みの例を紹介しています。