海に浮かぶラボがサンフランシスコ湾の健全な海洋生育環境を促進

September 16, 2019 Zach Mortice

離れたところから Float Lab インスタレーションを見る限りは、単なるボートとしか思えないだろう。

だが実際は、カリフォルニア美術大学 (CCA) による建築生態学の実験施設だ。繊維ガラスで作られた楕円形の船体は航海にも対応しているが、その目的はボート遊びなどではない。この水面に浮かぶインスタレーションは、水を切って進むのでなく、その場にじっと留まって、周辺の海洋生育環境に住む動植物をゆっくりと付着させる (「固着」と呼ばれる)。サンフランシスコ湾に面するオークランドの Middle Harbor Shoreline Park へ 2019 年 8 月に錨を下ろした後は、3 年間に渡って数十 m 沖合に係留され、「どこにも行かない」旅に出るのだ。

この実験施設は、CCA の建築家とデザイナーのチームによって、海洋生物学者と環境学者が海中のエコシステムの情報を収集できるように作られている。半永続的な構造体として多様な海洋生物のコミュニティを引き寄せ、いま動植物が外来種や気候変動から受けている苦難を軽減することに貢献できるかどうかが最大の課題となる (施設はサンフランシスコ湾での研究用に建設されているが、他地域への応用が前提とされている)。

海洋 環境 float lab cca
サンフランシスコ湾への着水を待つ第 1 号の Float Lab [提供: CCA Architectural Ecologies Lab]

このプロトタイプは、2014 年から CCA が取り組んできた 20 数点の中でも最新かつ最大のものだ。小型車ほどのサイズ (4.6 x 2.7 m) でハート形になっており、複数のインスタレーションをモザイク状のパターンにつなぎ合わせることができる。

このチームが行う研究の多くは、海洋の専門家が収集した生物を使って移動用船舶の上で行う通常の研究とは逆を行くものだ。重さや抵抗により船舶の動きを低下させる生体の固着を防ぐ方法に関しては豊富なデータがあるが、固着を誘発させる方法の情報は少ない。CCA 建築学科のアダム・マーカス准教授は、エヴァン・ジョーンズ氏、マーガレット・イケダ氏とともに Architectural Ecologies Lab の Buoyant Ecologies プロジェクトを指揮。Float Lab のアイデアの背景には「多様性を生み出し、小さな生物が捕食者に襲われることなく小さな穴で安全に生息できるようにして、さらに堅牢な食物連鎖を生み出す」ことがあると述べる。

その実現のため、このインスタレーションは岩陰や割れ目、くぼみを生み出すさまざまな表面形状が特徴になっており、多様かつレジリエンスに優れたコミュニティの形成を促している。2 つの大きな丘が船の中心構造を構成し、その表面に広がっているのは、高密度に連なった小さな畝 (うね) だ。起伏があり、ざらざらとした表面構造によって、極小の触手 (あるいは根) のつかみどころが提供されている。

表面構造のバリエーションとそこに生息し得る生命体の例 [提供: CCA Architectural Ecologies Lab]

表面構造のバリエーションとそこに生息し得る生命体の例 [提供: CCA Architectural Ecologies Lab]

表面構造のバリエーションとそこに生息し得る生命体の例 [提供: CCA Architectural Ecologies Lab]

表面構造のバリエーションとそこに生息し得る生命体の例 [提供: CCA Architectural Ecologies Lab]

マーカス氏と彼のチームは、デザインと建設を通じて、表面構造の多様性を持ったインスタレーション表層の波形に注目。「最終的に重要なのは表層部分です」と、マーカス氏。「表面積を増やせれば、あらゆるレベルでさらに多くの動物を引き寄せるものとなります」。

このインスタレーションでは植物の植え付けや種蒔きは一切行われず、来る者は拒まないというスタンスが取られている。CCA の研究パートナーである Moss Landing Marine Laboratories の Benthic Lab のカミーユ・ハマーストロム氏は、「どうなるのか予想がつきません」と話す。重要なのは、この構造体の地形のような形状が、海洋生物の生息環境へと変化するかどうかだ。3 cm の畝の陰で生育できる生物が、10 cm の畝に耐え得るのだろうか?

ハマーストロム氏は、イガイや環形動物、甲殻類、カタツムリなどの腹足類、また他の生命体が生息できる環境の複雑性を生み出す藻類やその他の種を、海面下に呼び込めればと期待を寄せている。氏のチームのメンバーは、毎月スクーバダイビングで海中に潜ってインスタレーションをモニターし、動植物の数をカウントする予定だ。

サンフランシスコ湾は、世界の他の沿岸河口部と比較しても、外来種による汚染の被害が大きい。ハマーストロム氏は、中でも北太平洋原産で外来種に駆逐されつつある牡蠣、オリンピアへ注目するつもりだ。「地牡蠣の多くが、数を減らしています」と、ハマーストロム氏。「牡蠣は硬質の基盤に定住するので、呼び寄せられるのではないかと期待しています」。CCA チームは、吊り下げ式の鎖状構造を検証中だ。このインスタレーションからぶら下がる構造は、とりわけ牡蠣の誘引に有効な可能性がある。マーカス氏は、これを「海中並木」と呼び、波のもたらす作用の緩和も期待している。

Float Lab が主も関心を寄せるのは海洋生育環境の醸成だが、研究者たちは、こうしたインスタレーションで構成されるネットワークが、海面上昇によって影響が増加しつつある波の作用による海岸浸食を大幅に減らせるかどうかも知りたいと考えている。サンフランシスコ湾の沼地帯や湿地帯、干潟は急速に破壊が進み、海に飲み込まれつつある。CCA は複数の計算モデルを使用して Float Lab と海中に吊り下げられた構造の機能を分析し、消滅を食い止めようとしている。

マーカス氏とハマーストロム氏は、Float Lab が水上で安定した潮だまりの生息環境を提供することを期待している。インスタレーションそのものは海中の生物に向けて最適化されているが、その上部は海鳥が休息する経由地となる可能性もある。継続的で安定した動植物の生態には、あらゆるリソースが必要となり、そこにはカモメの落とす“ふん”も含まれる。「窒素の供給源となって、藻類の生育促進に役立ちます」と、ハマーストロム氏。

marine habitat float lab rendering of a cluster
一群となった Float Lab のレンダリング画像 [提供: CCA Architectural Ecologies Lab]

形を現した船

Float Lab の製造プロセスは、デジタル製造とアナログ建設のハイブリッドだ。チームは、潮だまりや陸上生物向けに最適化された上部構造をカスタマイズする選択肢を、材料経済に基づいて意図的に制限している。このインスタレーションは、繊維ガラスの一種である繊維強化プラスチック (FRP) 製であり、その耐久性や軽量性、強度、カスタマイズ性から海での応用には理想的だ。地形パターンのデザインに際して、マーカス氏と彼のチームは、まず手動で最大の形状特性を指定して、そこにインスタレーションの外形の残りの部分をアルゴリズムで生成した「反応拡散システム」からヒントを得たパターンを重ねた。

建築用カスタム複合材料メーカーの Kreysler & Associates は、CNC ロボットを使用して発泡ポリスチレンフォームで模型を成形。さらに、この模型から鋳型として再利用可能な FRP シェル モールドを作り、インスタレーションの上部と下部を作成した。2 つのパーツは樹脂でつなぎ合わせて密封処理されたのち、サンドブラスト仕上げにより表面粗さが上げられている。

Float Lab には、物理的な構成要素が幾つか備えられている。灌漑システムによって、潮だまりには水が少しずつ注ぎ込まれる。またコンクリート製のバラストは、2 台のビルジポンプが内部の水を排出し、水質センサーと濁度センサーが機能するよう、インスタレーションの安定性を維持している。これらすべてが、上部のソーラーパネルでエネルギーを供給される、再充電可能なバッテリーで駆動される。

Autodesk は、当初からパートナーとして Float Lab の開発に参加してきた。2014 年には、このテーマに取り組む CCA 初のスタジオに資金提供を行い、チームをサンフランシスコの Autodesk Technology Center のワークショップと製造施設に招待。レジデンシー プログラムのメンバーとして、センターのワークショップやファブリケーション施設、そこにいる業界のエキスパートたちにもアクセスできる。

マーカス氏は、CCA チームが「人間とそれ以外の生物の共存という、このアイデアに関心を持っています」と話す。それは、ひとつのエコシステム内での人間と海洋生物の関係だけに留まらない。海を人間の居住地の目標だと考えるユートピア思想には長い歴史があり、その考え方が激変する気候変動によって加速する可能性がある。Float Lab は、こうした想定から一歩離れて、植民地支配的な新たな企てをスタートさせる前に、まずは遠隔からエコシステムのバランスを取り戻し、責任を持って管理しようとする姿勢を示している。この新しいハイブリッド構造体へ、ウェットスーツ無しで近づける者は誰もいないかもしれないが、短期なら居住可能な化学実験室かもしれないし、それ以上のものになるのかもしれない。

だが、このプロジェクトの究極の目的は、Architectural Ecologies Lab の取り組みの推進力と同じく、すべてにかかわる原理であり、より幅広いエコシステムに対して、より敏感でより生産的な建築戦略を開発することになっている。つまり人類や他の生物にとって、より良い世界を作ることなのだ。

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